まさか、という想いが伝わったのかも知れない。むしろそうというよりも、ずっと感覚を共有しているというのは不思議なもので、彼のこの疑惑は既に知れているのだと分かっていても自分の意思というものはどうも御しがたく愚かしく尋ねるということをしたくなるのだから。こういうとき、本当に自分たちは別の人間なのだと思い知らされる。
「ハレルヤ?」
俺の名前を口に出すな、と何度伝えれば理解するのだろう。ごめん、と一つ言葉を考える迄もない、謝罪の感情が素直に伝わるのだから増してそれを声にする必要も無いのだ。それだけに、しかしながら如何せん不便だ。なぜならば全てが互いに筒抜けなのだから。それは確かに、自分だけの意識に極集中しているときならば心の奥底に居座る他人のことなど気にもかけないのだろうが。
僕が君のことを嫌いな筈がないじゃないか、と優しく笑う。けれどアレルヤの指先は決してその言葉を受け取る者に触れることはなく、いつだって本当に彼らが邂逅を果たすことはない。今だって、不安になるほどいとおしげにその指先を滑らせるのは彼ではない、存在。そんなふうにしながらも、悲しいの、と問いかければそれほどに好きなのだと、勝手に流れいずる思考にまた、アレルヤは少しだけ微笑んだ。
(君を殺したくないんだ、僕はそれだけのためにここにいる)
何もかも知っていて、哀れみの情などうまれる筈もない。だから、分かっているから、と思いはするけれど、でもやはり納得できないことだってある。ハレルヤ、とアレルヤが呼びかけるその彼は断ち切ることのできない、アレルヤの感情をしかしひどく受け入れ難いとしか思えないのだ。だって、おまえの一番はいつだって俺だったのに。いつか他の奴を好きになったりしたら絶対に殺してやるつもりだった。今でもその覚悟は変わらないし、これからも変えるつもりはない。何度でもそうする、つもりなのに。
「でも僕には必要だよ、どうしても」
知っている、と叫びたくなる。勿論、そんなことをする意味はないし、必要もない、そして抑も不可能だ。即ち認めざるを得ない事実が只々憎らしかった。卑怯だ、とありもしないからだを震わせる、それはいったい誰のイメージなのだろう。
そしてそれらは全てふたりの思考を同じように満たすものだから、とうとう、耐え切れずにアレルヤはちいさく嘆息した。
「もう…、そんな聞き分けのないことばっかりだと」
ほんとに、この子を好きになっちゃうよ?
先刻から、ずっと一緒にいる大切な存在へと、くちづける。滑らかな装甲は、やわらかな唇を受け入れることもないのに、それでも漣の立つ彼の心が伝わって、少しだけ、こんなにも愛してくれるひとがいることを嬉しく思える。
―――だからこそ。
(お前を守れるのは俺だけでいいのに)
(ばかだなあ、ハレルヤは)
きっとそれは、どちらにせよぞっとするほど冷たい声色で空間に響いたのだろう。互いに矛盾し合う価値観はそれとして彼らにとってすべて愛おしいものに他ならない。生きている理由と、死ぬための条件は擦れ違い続けて、望む終焉などきっと彼らには訪れることはない。
けれど、少なくとも可能性を掴むことのできる、広い翼は今唯一の救いであることに違いない。その色彩はまるでこのからだの主のような金の光を弾いて、眩くその場所に在る。目を眇めるアレルヤには充分すぎる、その感慨は深い淵へと沈みゆく、しかしながら誰にも触れられない場所など自分にはないというのに、と。
あいしてる、なんて言葉は必要なく、それゆえその代わりとして、ただ静かに佇む美しい機体へとアレルヤは苦い笑みを向けた。
*
きみはぼくがいなくてもいきていけるくせに。
それにしても先走りすぎなSSです。しかもいろいろとアレな感じでイタタ!と思わざるを得ない雰囲気。あとまあうら若き乙女!の自信があるお嬢さんは読んじゃ駄目です。
では5話の延長線上ということで大丈夫そうな御方だけどぞー。
CPはキュリオスとアレルヤと緑の(ryで三角関係。
キュリオスが好きだ!ということで以下がSSです。
ねえ、と問い掛ける言葉を持たない代わりに、静かに立ち去る足音さえも。何一つ手元に残らない、アレルヤとのやりとりが、嫌いだ。だから、擦れ違おうとするからだを強く引き寄せて抱きしめて、乱暴にくちづける。
見開かれた瞳を、触れ合うほどの至近距離で見つめてやると僅かな戸惑いがひと時だけきらめいて。そのままきつく閉ざされてしまうと、その場所に触れられないもどかしさばかり募って、性急に求める舌先は、誘うよりもよほど拐す艶やかさでアレルヤの全てを翻弄する。構わず、己の望むままに蹂躙する彼の腕を指の腹で引っ掻く、アレルヤの抗議は受け入れられることなく、簡単にノーマルスーツをくつろげられる。インナーシャツを剥がそうとする手を辛うじて制止すれば、鈍い痛みを与えられた。そして漸く離れていく唇の間を、血液の混じった唾液が繋ぎとめるように。
「刹那」
「きらいだ」
何を、とは言わない。おまえが、というのは本当はただの八つ当たりだし、思い通りにならないことなどこの世界には溢れかえっていて数えるのも面倒なほどだというのに。
眼に鋭い光を滑らせて、手を伸ばす。耳の端から顔の輪郭を辿り、顎の先から指先を下ろして喉もとに突きつけるのは、刃ではなくてもっと決定的な苦痛、でも有り得るというのに。強いて例えるなら、恐怖と言い換えるための鍵を刹那はその胸の内に秘めている。けれど、僅かに見下ろす彼の瞳はなおも穏やかさを湛えて、ほんの少し年下の少年を眺めている。さらには、ゆっくりと、血に濡れたままの唇が動く。
「大丈夫、刹那。殺されてなんかあげないよ」
ごめんね、と悲しそうに微笑み、告げる言葉が本気であればあるほど刹那がアレルヤへと向ける感情はずっと増していくのに、そのことすら分からないアレルヤは、自分を見上げる刹那の視線を受け止められないと言う。
そのうえ君を殺すこともしないと宣言する、清らかな声色はやはりどこか遠い場所へと溶けて消えてしまう。境界線は、すぐそこにあるのに越えられないのは全てこの偽善者の所為だ。ひとりきりでずっと、離れた場所にいるつもりになって、アレルヤが仲間だとひとくくりにしているのは都合のよい言葉だけのことで、本当は誰とも深く関わっていないし、抑も彼は関わろうともしないのだ。気付いていないのはアレルヤのほうで、刹那はいつだって引き摺り込むつもりで彼にくちづける。奪われてしまえ、そして死ぬほど後悔すればいい。そうしたら、きっと殺してやる。ぐっと、喉もとに突きつけた指先に力を込めると、とうとう白い左手は明確な意図を持って刹那のてのひらを包み引き剥がした。伏せた瞼はひくりともせず、やはりごめん、と言う心地良い声だけが刹那の聴覚を掠めていくのだから。そうして、悲しみを増す闇色の瞳を見るたびに、刹那の心は傾ぐ。彼が救いを求める言葉に縋る度に、狂気を孕む感情がてのひらから零れ落ちる。握り締めた憎悪が掻き消えていくことが恐ろしくなる。
(或いは、だからこそこの美しい手にかかることすら望むほどに)
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河西への連絡はメールフォームかコメント欄を使うとよいのではないだろうか。
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